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2015年度; 修士論文の概要(大坂)

ヒト器官形成期における視覚器の発達についての3次元的解析

眼球

【背景】視覚器の発生はCarnegie Stage(CS) 10の視溝形成から始まり、生後数ヶ月まで発達が続く。器官形成期における組織学的な研究はこれまで多くの報告があるが、3次元的な検討は十分には行われていない。

【対象と方法】京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センター所有のヒト胚子、胎児標本の立体情報計65例(位相CTdata;26例、MRIdata;39例)を対象とした。用いた標本は全て明らかな外表奇形、視覚器の異常を伴っておらず、胚子標本はCS16~CS23、胎児標本は胎児期初期(CRL34㎜~152㎜)に分類される。画像情報を基に視覚器の立体像を作製し、1)頭部における水晶体や網膜(強膜)、視神経などの立体的位置関係の変化の検討、2)外眼筋の形成過程の検討を行った。

【結果】1)視覚器の立体的位置関係の変化: 水晶体は外側から腹側、頭側から尾側へ移動した。頭部横径に対する水晶体中心間距離はCS16~C21では1~1.2だったが成長に伴い減少し、CS16~CRL30㎜の胎児期初期までは変化が大きく、その後0.4~0.5に収束した。頭尾方向の移動はCS17~CS18 にかけて大きな変化がみられた。左右の視神経がなす角度は、CS16~17では160°~180°だったが徐々に小さくなりCRL30㎜の胎児期以降では60°~80°に収束した。いずれの変化もCRL30㎜以降の胎児期初期で収束し成人の値と近くなることから、この時期から頭部における視覚器の位置関係は成人に近いことを示した。

2)外眼筋の形成過程: 胎児期初期では成人と同様、4本の直筋(上直、下直、内直、外直)と上斜筋は視神経管周囲の骨膜(総腱輪)から、下斜筋は眼窩の前縁内側骨膜から起始していた。全ての外眼筋が眼球表面の強膜に停止しており、発達に大きな左右差はみられなかった。体積は外直筋、長さは上斜筋、平均断面積は上直筋が最も増加率が大きかった。上斜筋の滑車部分がなす角度は、CS22~23では直角に近かったが、徐々に小さくなりCRL50㎜以降の胎児期では40°~50°に収束し成人と近い値を示した。

【結論】胚子期、胎児期初期のいずれも正常と判定された個体の位相CTdataやMRIdataを用いて視覚器の立体像を作成し、成長に伴う視覚器の立体的位置関係の変化や外眼筋の成長を定量的に明らかにした。異常個体の立体像も同様に作成することで、視覚器の発生の異常についても解析できることが期待できる。また、さらに解像度の高い撮像方法が可能となることで、今回解析できなかったCS16以降の個体でも詳細な解析が行われることが期待できる。

29. Osaka M, Ishikawa A, Yamada S, Uwabe C, Imai H, Matsuda T, Yoneyama A, Takeda T, Takakuwa T, Positional changes of the ocular organs during craniofacial development, Anat Rec (Hoboken) 300(12), 2107–2114, 2017 DOI: 10.1002/ar.23588(概要)

卒業研究発表会

4回生の卒業研究発表会が行われました。

本年度は、理工系のグループに混じっての発表になりました。

ヒト胚子期~胎児期における側頭骨錐体部の内部構造の三次元的観察 石川 葵
ヒト胚子期~胎児期における腎臓形成過程の観察 石山 華
胚子期~胎児期初期のヒト骨盤形成過程の三次元的観察 奥村 美咲
胎児期初期の脳実質・脳室・脈絡叢の高精細MR画像を用いた三次元的観察 山中 美希(石津研)
生理的臍帯ヘルニアの還納過程及び盲腸回盲部の腹腔内固定について 八田 真之介

脾臓の形態形成(遠藤卒論)Antat Recに掲載

CS19;脾臓と胃

遠藤さんの卒業論文「ヒト胚子脾臓の形態形成」がAnat Recに掲載されました。

脾臓は、左上腹部の胃の後方に位置する腹腔内の代表的な器官です。脾臓は成人では。成人の脾臓の主な役割は、血液の濾過・不要な物質の除去と免疫系としてのリンパ球の産生です。ヒトにおける初期発生過程はこれまでほとんど知られていませんでした。本研究では、脾臓の形態形成、および脾臓内外の血管の形成過程についてCarnegie stageごとに記載しました。

CS20;脾臓と胃の組織像
  • CS14-17 ;脾臓はdorsal mesogastrium (DM) の膨らみとして認識
  • CS16まで;中皮は偽重層、のちに円柱上皮に置換
  • CS17以降;基底膜が明瞭、間葉細胞の分化
  • CS 18;細胞密度の高い領域が認識、造血細胞の検出
  • CS 20 の後;類洞、脾門部の形成
  • CS23;動静脈の確認
  • 成長速度(長さ)は胃とほぼ同じ

11.Endo A, Ueno S, Yamada S, Uwabe C, Takakuwa T, Morphogenesis of the spleen during the human embryonic period,  Anatomical Rec, 2015, 298, 820-826, doi: 10.1002/ar.23099

ABSTRACT

We aimed to observe morphological changes in the spleen from the emergence of the primordium to the end of the embryonic period using histological serial sections of 228 samples. Between Carnegie stages (CSs) 14 and 17, the spleen was usually recognized as a bulge in the dorsal mesogastrium (DM), and after CS 20, the spleen became apparent. Intrasplenic folds were observed later. A high-density area was first recognized in 6 of the 58 cases at CS 16 and in all cases examined after CS 18. The spleen was recognized neither as a bulge nor as a high-density area at CS 13. The mesothelium was pseudostratified until CS 16 and was replaced with high columnar cells and then with low columnar cells. The basement membrane was obvious after CS 17. The mesenchymal cells differentiated from cells in the DM, and sinus formation started at CS 20. Hematopoietic cells were detected after CS 18. The vessels were observed at CS 14 in the DM. Hilus formation was observed after CS 20. The parallel entries of the arteries and veins were observed at CS 23. The rate of increase in spleen length in relation to that of stomach length along the cranial-caudal direction was 0.51 ± 0.11, which remained constant during CSs 19 and 23, indicating that their growths were similar. These data may help to better understand the development of normal human embryos and to detect abnormal embryos in the early stages of development.

修士論文審査が行われました

ueno

ozeki

修士論文審査が行われました。落ち着いてわかりやすく発表でき、良かったと思います。諮問も問題なく終了です。

 

 

2014年度;修士論文の概要 (尾関)

ヒト聴覚器の各発生段階の形態学的解析

CS22聴覚器
CS22 聴覚器立体像

背景:ヒトの聴覚器は、内耳、中耳、外耳に分けられる.その発生過程については、これまで組織切片を用いた観察が主体であり、立体像を用いた解析は膜迷路でしか行われていない.また、現在ヒト発生学での発生段階の指標として用いられているカーネギーステージ(Carnegie Stage(CS))分類の提唱以前に行われているものが多いため、CSに沿った報告が少ない.

目的:ヒト胚子の連続組織切片を用いて立体像を作成し、胚子期における内耳、中耳、外耳それぞれの各CSにおける形態的特徴と、相互の位置関係を明らかにする.

対象・方法:京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センターに保存されている外表の状態から正常と判断され、かつ、保存状態が良好なヒト胚子の連続組織切片17個体(聴覚器33例)を用いて聴覚器の立体像を作成し,CSごとに発生過程の観察を行った.

結果:①内耳 半規管:CS18(4個体、聴覚器8例)では、3例で半規管が全く形成されておらず、1例で後半器官のみ、1例で前半規管のみ、3例で前半規管と後半規管の2つが形成されていたが、CS19以降の個体では全例で3つ全ての半規管が観察された.蝸牛管:CS18(4個体、8例)では、6例で蝸牛管の回転は観察されず、2例で回転方向(上向き)に曲がりL字型になっていた.その後徐々に回転が進み、CS19(3個体、6例)の2例で半回転、CS20(2個体、4例)の全例で1回転、CS21(4個体、8例)の2例とCS22(3個体、5例)の全例で1回転半、CS23(1個体、2例)の全例で2回転していた.卵形嚢と球形嚢:CS22(3個体、5例)の3例とCS23(1個体、2例)の全例で球形嚢と卵形嚢を明確に区別することが可能であった.②中耳 耳小骨:アブミ骨はCS18(4個体、8例)の2例ですでに輪の形が形成されていたが、CS23までの全例でアブミ骨底が観察されなかった.ツチ骨とキヌタ骨は、CS19(3個体、6例)の4例で原基が観察でき、CS23までに成人のものとほぼ同様の形態がつくられていた.また,キヌタ・ツチ間の関節面はCS19(3個体、6例)の2例で接しており、キヌタ・アブミ間の関節面はCS21(4個体、8例)の7例で接していた.耳管:耳管は全CSの全例で正面から観察すると平たく、側面から観察すると、耳介へ向かって広がる裂隙状であった.③外耳 外表形態:Streeter G. L.による耳介の形態分類を参考に分類を行ったところ、時系列に沿った形態が観察されたが、左右で形態に差をもつ個体が6個体存在した.④相互関係 耳小骨と内耳:側面から観察した際、CS20までは全例とも、耳小骨が蝸牛管の回転始起部付近で前後方向にずれて存在していたが、発達段階が進むにつれて徐々に近づき、CS22以降の全例で、耳小骨が前庭付近で互いに重なり合って存在していた.CS23では、全例でアブミ骨が球形嚢部分に接していた.耳管と外耳道:CS19では耳管に対して低い位置に存在する外耳道が,発達段階が進むにつれて徐々に耳管に接近していた.

結論:本研究で,CS18からCS23までの聴覚器の立体像を作成し,各CSのそれぞれの発生過程と相互関係が明らかになった.今回,正常個体の発生過程が明らかになったことにより,先天的な聴覚器の異常の早期発見につながることが期待される

21. Ozeki-Sato M, Yamada S, Uwabe C, Ishizu K, Takakuwa T, Correlation of external ear auricle formation with staging of human embryos, Congenit Anom (Kyoto) 56, 86-90, 2016, DOI: 10.1111/cga.12140,  (概要) (外耳形態の部分)

26. Ozeki-Satoh M, Ishikawa A, Yamada S, Uwabe C, Takakuwa T. Morphogenesis of the Middle Ear Ossicles and Spatial Relationships with the External and Inner Ears during the Embryonic Period, Anat Rec (Hoboken) 299:1325–1337, 2016, DOI 10.1002/ar.23457, (概要) (中耳骨の形成と内耳・外耳・耳管との空間的関連性)

2014年度;修士論文の概要 (上野)

The digestive tract and derived primordium differentiate by following a precise timeline in early human embryos
ヒト体節期における消化管とその由来原基の分化時系列の解析 

上野沙季

[背景] ヒトは受精後38週で出生し、前半の8週間は胚子期と呼ばれる。胚子期は外表の形態学的特徴と内部観察に基づき23段階に分類され、これをCarnegie Stage (CS)という。CS9-13の段階は、形成された体節の数で定義されている。このうちCS12-13は、卵黄嚢の閉鎖が進み消化管が形成され、肺・肝臓・膵臓・胆嚢など消化管由来の器官原基が発生・分化する時期である。この時期のヒト胚子については組織観察に基づく様々な症例報告がされているが、複数の個体間での分化状況に関する比較検討は行われていない。本研究では、CS12-13における消化管及びその由来原基の立体構造を明らかにするとともに、CS12-13の期間を細分化し、同一CSに相当する個体間で消化管と由来原基の発生・分化の時系列を比較検討した。

[対象と方法] CS11-13に相当する計42体のヒト胚子連続組織切片を再構築して立体像を作成し、消化管内腔を描出してその形態を観察した。咽頭・肺・胃・肝臓・膵臓領域は組織観察を追加して行った。各個体の体節の数を計測し、体節番号を用いて各器官原基の頭尾方向の位置を検討した。CS12は体節数、CS13は眼の原基の発生を4段階 (gradeⅠ-Ⅳ)に細分化したものを時間的指標とし、消化管と由来原基の分化状況を解析した。外表に異常のみられる6個体についても同様に再構築を行い、正常個体で検討した分化時系列と比較し、消化管の異常の有無について検討した。

[結果] ①消化管と器官原基の形態変化: 消化管では、CS12の体節数24で網嚢の発生、CS13のgradeⅠで8つの咽頭嚢の発生、gradeⅡで胃が紡錘型に分化、中腸ループ・十二指腸ループの形成が観察された。由来原基では、CS12の体節数26で肺原基の発生、体節数27で頭側肝芽の形成、CS13のgradeⅠで肺原基の分岐、背側膵芽原基の発生、gradeⅡで胆嚢原基の発生、gradeⅢで気管の分化、gradeⅣで気管の最長2体節分までの伸長が観察された。②器官原基の位置: 肺は第2体節の高さから尾側へ下降し、CS12の体節数26以降は第4体節付近にとどまっていた。CS13のgradeⅢでの気管分化後も、気管と食道の分岐点は第4体節の高さに位置しており、個体差はほぼなかった。CS12では胃・肝臓が4体節ほど下降していたが、CS13では1体節分の下降にとどまり、背側膵芽・胆嚢も肝臓に近接して下降していた。③異常個体の解析: 異常個体6例中4例は消化管に異常が観察されず、その特徴は作成した分化時系列と一致した。1例は肺原基と中腸領域、もう1例は肝臓原基に分化時系列にあてはまらない形態異常が検出された。

[考察] 胚子の体節数及び細分化した発生段階と、消化管と由来原基の発生・分化時期とは関連性がみられた。CS12-13の消化管の発生と分化は従来考えられていたよりも精確に進行しており、個体差が少ないと考えられる。今回正常個体の観察から得られた分化時系列を参照して、外表異常の個体において消化管の発達異常を検出できた。この時系列解析は、消化管に関する異常の早期発見への有用性が見込まれる。

22. Ueno S, Yamada S, Uwabe C, Männer J, Shiraki N, Takakuwa T, The digestive tract and derived primordia differentiate by following a precise timeline in human embryos between Carnegie stages 11 and 13, Anat Rec (Hoboken) 2016,  299, 439-449, DOI: 10.1002/ar.23314s,  (概要)

胚子期の胃の形態と動き(海外,名古); Anat Recに掲載

海外くんの卒業論文がAnatomical recordに掲載されました。卒業後、 Office assistantとして2年かけて仕上げてくれました。教科書には、胃の動きは”下降”、”頭尾軸に対する回転”、”背腹軸に対する回転”と3つの動きにわけて説明されています。しかしながら実際の動きは立体空間的でありそう単純ではありませんでした。

8. Morphogenesis and three-dimensional movement of the stomach during the human embryonic period,

2014 May;297(5):791-7. doi: 10.1002/ar.22833.

  • 377例の胚子MR画像を用いて、CS16-23の胃の形態形成と動きを検討
  • stageごとに特徴的な形態
    • CS18; 胃角、胃底部の隆起
    • CS18-20; 胃角は90度程度であったが、それ以降鋭角
    • CS20; 噴門、幽門の分化がみられた。
  • 大弯(M)の3次元的な動き(M), は噴門(C)、幽門(P)の動きと大きく異なる。
    • C、PはCS16-23の間正中矢状面上にほぼ存在
    • Mは尾側、左側にCS22まで大きく移動
    • CPは左右軸を中心に回転
    • 胃の最大平面CPMはおもに頭尾軸を中心に回転
  • 胃の偏位とdifferential growthにより胃は左側、尾側に移動するように見えると推察
CS22の胃; 左から、胃の立体像、 最大断面像、解剖学的観察点、空間座標内の表示

本研究の立体画像元データの一部はMorphoMuseuMに受諾されました。

20. Nako A, Kaigai N, Shiraki N, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, 3D models related to the publication: Morphogenesis of the stomach during the human embryonic period, MorphoMuseuM, in press

ABSTRACT

The stomach develops as the local widening of the foregut after Carnegie stage (CS) 13 that moves in a dramatic and dynamic manner during the embryonic period. Using the magnetic resonance images of 377 human embryos, we present the morphology, morphometry, and three-dimensional movement of the stomach during CS16 and CS23. The stomach morphology revealed stage-specific features. The angular incisura and the cardia were formed at CS18. The change in the angular incisura angle was approximately 90° during CS19 and CS20, and was <90° after CS 21. The prominent formations of the fundus and the pylorus differentiate at around CS20. Morphometry of the stomach revealed that the stomach gradually becomes “deflected” during development. The stomach may appear to move to the left laterally and caudally due to its deflection and differential growth. The track of the reference points in the stomach may reflect the visual three-dimensional movement. The movement of point M, representing the movement of the greater curvature, was different from that of points C (cardia) and P (pyloric antrum). The P and C were located just around the midsagittal plane in all the stages observed. Point M moved in the caudal-left lateral direction until CS22. Moreover, the vector CP does not rotate around the dorsoventral axis, as widely believed, but around the transverse axis. The plane CPM rotated mainly around the longitudinal axis. The data obtained will be useful for prenatal diagnosis in the near future.

金橋くんの修士学位審査が終了

修士お祝い

金橋くんの修士学位審査が無事おわり、 昼食partyでお祝いしました。お疲れ様でした。(14.02.07)

論文題目;ヒト胚子期における肝臓形態形成異常の解析

A series of liver malformations in externally normal human embryos

英語論文として受諾されました。

18. Kanahashi T, Yamada S, Tanaka M, Hirose A, Uwabe C, Kose K, Yoneyama A, Takeda T, Takakuwa T, A novel strategy to reveal the latent abnormalities in human embryonic stages from a large embryo collection, Anatomical Record, 299,8-24,2016  10.1002/ar.23281(概要), *299(1),2016の表紙に採用されました。DOI: 10.1002/ar.23206 (cover page)