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2014年度;修士論文の概要 (上野)

The digestive tract and derived primordium differentiate by following a precise timeline in early human embryos
ヒト体節期における消化管とその由来原基の分化時系列の解析 

上野沙季

[背景] ヒトは受精後38週で出生し、前半の8週間は胚子期と呼ばれる。胚子期は外表の形態学的特徴と内部観察に基づき23段階に分類され、これをCarnegie Stage (CS)という。CS9-13の段階は、形成された体節の数で定義されている。このうちCS12-13は、卵黄嚢の閉鎖が進み消化管が形成され、肺・肝臓・膵臓・胆嚢など消化管由来の器官原基が発生・分化する時期である。この時期のヒト胚子については組織観察に基づく様々な症例報告がされているが、複数の個体間での分化状況に関する比較検討は行われていない。本研究では、CS12-13における消化管及びその由来原基の立体構造を明らかにするとともに、CS12-13の期間を細分化し、同一CSに相当する個体間で消化管と由来原基の発生・分化の時系列を比較検討した。

[対象と方法] CS11-13に相当する計42体のヒト胚子連続組織切片を再構築して立体像を作成し、消化管内腔を描出してその形態を観察した。咽頭・肺・胃・肝臓・膵臓領域は組織観察を追加して行った。各個体の体節の数を計測し、体節番号を用いて各器官原基の頭尾方向の位置を検討した。CS12は体節数、CS13は眼の原基の発生を4段階 (gradeⅠ-Ⅳ)に細分化したものを時間的指標とし、消化管と由来原基の分化状況を解析した。外表に異常のみられる6個体についても同様に再構築を行い、正常個体で検討した分化時系列と比較し、消化管の異常の有無について検討した。

[結果] ①消化管と器官原基の形態変化: 消化管では、CS12の体節数24で網嚢の発生、CS13のgradeⅠで8つの咽頭嚢の発生、gradeⅡで胃が紡錘型に分化、中腸ループ・十二指腸ループの形成が観察された。由来原基では、CS12の体節数26で肺原基の発生、体節数27で頭側肝芽の形成、CS13のgradeⅠで肺原基の分岐、背側膵芽原基の発生、gradeⅡで胆嚢原基の発生、gradeⅢで気管の分化、gradeⅣで気管の最長2体節分までの伸長が観察された。②器官原基の位置: 肺は第2体節の高さから尾側へ下降し、CS12の体節数26以降は第4体節付近にとどまっていた。CS13のgradeⅢでの気管分化後も、気管と食道の分岐点は第4体節の高さに位置しており、個体差はほぼなかった。CS12では胃・肝臓が4体節ほど下降していたが、CS13では1体節分の下降にとどまり、背側膵芽・胆嚢も肝臓に近接して下降していた。③異常個体の解析: 異常個体6例中4例は消化管に異常が観察されず、その特徴は作成した分化時系列と一致した。1例は肺原基と中腸領域、もう1例は肝臓原基に分化時系列にあてはまらない形態異常が検出された。

[考察] 胚子の体節数及び細分化した発生段階と、消化管と由来原基の発生・分化時期とは関連性がみられた。CS12-13の消化管の発生と分化は従来考えられていたよりも精確に進行しており、個体差が少ないと考えられる。今回正常個体の観察から得られた分化時系列を参照して、外表異常の個体において消化管の発達異常を検出できた。この時系列解析は、消化管に関する異常の早期発見への有用性が見込まれる。

22. Ueno S, Yamada S, Uwabe C, Männer J, Shiraki N, Takakuwa T, The digestive tract and derived primordia differentiate by following a precise timeline in human embryos between Carnegie stages 11 and 13, Anat Rec (Hoboken) 2016,  299, 439-449, DOI: 10.1002/ar.23314s,  (概要)

胚子期の胃の形態と動き(海外,名古); Anat Recに掲載

海外くんの卒業論文がAnatomical recordに掲載されました。卒業後、 Office assistantとして2年かけて仕上げてくれました。教科書には、胃の動きは”下降”、”頭尾軸に対する回転”、”背腹軸に対する回転”と3つの動きにわけて説明されています。しかしながら実際の動きは立体空間的でありそう単純ではありませんでした。

8. Morphogenesis and three-dimensional movement of the stomach during the human embryonic period,

2014 May;297(5):791-7. doi: 10.1002/ar.22833.

  • 377例の胚子MR画像を用いて、CS16-23の胃の形態形成と動きを検討
  • stageごとに特徴的な形態
    • CS18; 胃角、胃底部の隆起
    • CS18-20; 胃角は90度程度であったが、それ以降鋭角
    • CS20; 噴門、幽門の分化がみられた。
  • 大弯(M)の3次元的な動き(M), は噴門(C)、幽門(P)の動きと大きく異なる。
    • C、PはCS16-23の間正中矢状面上にほぼ存在
    • Mは尾側、左側にCS22まで大きく移動
    • CPは左右軸を中心に回転
    • 胃の最大平面CPMはおもに頭尾軸を中心に回転
  • 胃の偏位とdifferential growthにより胃は左側、尾側に移動するように見えると推察
CS22の胃; 左から、胃の立体像、 最大断面像、解剖学的観察点、空間座標内の表示

本研究の立体画像元データの一部はMorphoMuseuMに受諾されました。

20. Nako A, Kaigai N, Shiraki N, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, 3D models related to the publication: Morphogenesis of the stomach during the human embryonic period, MorphoMuseuM, in press

ABSTRACT

The stomach develops as the local widening of the foregut after Carnegie stage (CS) 13 that moves in a dramatic and dynamic manner during the embryonic period. Using the magnetic resonance images of 377 human embryos, we present the morphology, morphometry, and three-dimensional movement of the stomach during CS16 and CS23. The stomach morphology revealed stage-specific features. The angular incisura and the cardia were formed at CS18. The change in the angular incisura angle was approximately 90° during CS19 and CS20, and was <90° after CS 21. The prominent formations of the fundus and the pylorus differentiate at around CS20. Morphometry of the stomach revealed that the stomach gradually becomes “deflected” during development. The stomach may appear to move to the left laterally and caudally due to its deflection and differential growth. The track of the reference points in the stomach may reflect the visual three-dimensional movement. The movement of point M, representing the movement of the greater curvature, was different from that of points C (cardia) and P (pyloric antrum). The P and C were located just around the midsagittal plane in all the stages observed. Point M moved in the caudal-left lateral direction until CS22. Moreover, the vector CP does not rotate around the dorsoventral axis, as widely believed, but around the transverse axis. The plane CPM rotated mainly around the longitudinal axis. The data obtained will be useful for prenatal diagnosis in the near future.

金橋くんの修士学位審査が終了

修士お祝い

金橋くんの修士学位審査が無事おわり、 昼食partyでお祝いしました。お疲れ様でした。(14.02.07)

論文題目;ヒト胚子期における肝臓形態形成異常の解析

A series of liver malformations in externally normal human embryos

英語論文として受諾されました。

18. Kanahashi T, Yamada S, Tanaka M, Hirose A, Uwabe C, Kose K, Yoneyama A, Takeda T, Takakuwa T, A novel strategy to reveal the latent abnormalities in human embryonic stages from a large embryo collection, Anatomical Record, 299,8-24,2016  10.1002/ar.23281(概要), *299(1),2016の表紙に採用されました。DOI: 10.1002/ar.23206 (cover page)

2013年度;修士論文の概要 (金橋 徹)

ヒト胚子期における肝臓形態形成異常の解析
A series of liver malformations in externally normal human embryos

pcCT

BACKGROUND

肝臓は胚子期に腹腔内最大の器官へ発達するとともに、造血や代謝等の胚子・胎児の成長にとって重要な役割を担う。ヒト胚子期における正常な肝臓の形態形成については我々の研究室が報告したが、形態形成異常についての報告はなされていない。肝臓は発生中に造血や胎児蛋白産生等の重要な機能を果たすことから、その形成不全は胚子・胎児の発育に影響を与える可能性が高く、子宮内胎児死亡に至る可能性がある。また、多くの外表奇形が流産の原因となることが報告されている一方で、外表奇形を伴わなわず流産に至る原因については明らかになっていない。今回、外表奇形を伴わないヒト胚子の中から、肝臓形成不全の可能性のある個体を抽出し、肝臓、並びに周辺器官の形態形成の特徴について明らかにする為に、詳細な解析を行なった。

METHODS

京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センターに保存されている外表奇形を伴わないヒト胚子から、MR顕微鏡で撮像された1156例 (Carnegie stage (CS)14~23)を対象とした。これらは、肝臓形態形成に異常の可能性があるものを抽出するため以下のスクリーニング法を用いて解析を行なった。1)肝臓体積を推定できる式を作成し、各胚子の肝臓体積推定値を算出。2)肝臓体積推定値が各CS平均±2SDを外れる個体を抽出した後、肝臓、並びに周辺器官についてMR画像や三次元再構築像により、形態観察を行ない、抽出した個体から肝臓形態形成異常の可能性が高いものを選抜。選抜個体については、MR顕微鏡よりも高解像度の位相コントラストX線CT(PCT)により再撮像を行ない、胚子内部の詳細な解析を加えた。

RESULTS

肝臓体積推定値によるスクリーニングから、体積推定値が各CS平均+2SD以上の個体が41例(CS14~23)、各CS平均-2SD以下が12例(CS19~21)得られた。計53例について形態観察を行ない、平均+2SD以上の個体41例からExtra-large群として8例(CS17~19)、平均-2SD以下12例からExtra-small群として7例(CS20~21)を選抜し、PCTで再撮像し、胚子内部の解析を行なった。肝臓の形態形成異常はExtra-small群7例全てで観察され、Extra-large群では8例中2例で観察された。Extra-small群7例は以下のように分類された。①肝臓無形成; 2例、②肝臓低形成; 4例、③右葉欠損; 1例。また、7例中5例で肝臓の他、周辺器官に形態形成異常の合併がみられた。Extra-large群では、2例中1例は肝臓のみに異常がみられ、臍帯静脈の拡張が観察された。残り1例は、肝臓並びに周辺器官に形態異常の合併がみられた。肝臓形態形成を認める胚子はCS18からCS21に限定しており、約1.7%(9/532)の割合で出現した。

CONCLUSIONS:

本研究では、外表奇形がない胚子に肝臓の形態形成異常をもつ集団が約1.7%存在する事を新たに示した。同集団は、肝機能不全の結果、子宮内胎児死亡に至る可能性が高く、早期流産の原因の一つになると考えられる。

英語論文

18. Kanahashi T, Yamada S, Tanaka M, Hirose A, Uwabe C, Kose K, Yoneyama A, Takeda T, Takakuwa T, A novel strategy to reveal the latent abnormalities in human embryonic stages from a large embryo collection, Anatomical Record, 299,8-24,2016  10.1002/ar.23281(概要), *299(1),2016の表紙に採用されました。DOI: 10.1002/ar.23206 (cover page)

軟骨最表層の構造; (藤岡修論) Osteoarthritis Cartilageに掲載

藤岡さんの修士論文「軟骨最表層の構造について」がOsteoarthritis Cartilageに掲載されました。

  • 関節腔に直接面する最表面ゾーン (MSZ) の構造と分子成分をブタ 膝で組織学的に検討
  • MSZ が 3 つの層に細分
  • MSZ の最内側 (3 番目) の層;Collagen subtype I, II, III が存在
  • tangential layer;3 番目の層の下にあり、type II collagenと少量type III collagenが存在

7. Fujioka R, Aoyama T, Takakuwa T, The layered structure of the articular surface, Osteoarthritis Cartilage, 2013, 21, 1092-1098 doi: 10.1016/j.joca.2013.04.021

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Summary

Objective

Articular cartilage is roughly separated into three areas: the tangential, middle, and deep zones. The structure and molecular components of an additional important zone, the most superficial zone (MSZ), which directly faces the joint cavity, have yet to be conclusively elucidated. The purpose of the present study was to use multiple methods to study the MSZ in order to determine its structure.

Materials and methods

Knees from 16 pigs (age, 6 months) were used. Full-thickness cartilage specimens were harvested from the femoral groove. The MSZ was observed using light microscopy, transmission electron microscopy (TEM), and scanning electron microscopy (SEM) in combination with histochemical and immunohistochemical methods.

Results

The combined findings from the three different observational methods indicate that the MSZ is subdivided into three layers. Among these three layers, collagen subtypes I, II, and III are present in the innermost (third) layer of the MSZ. Beneath the third layer, type II collagen is the predominant type, with small amounts of type III collagen. This layer beneath the third layer is considered to be the tangential layer.

Conclusions

Our observations indicate that the MSZ is subdivided into three layers. Further analysis of the molecular components in each layer may improve our understanding of the structure of the articular surface.

2012年度;修士論文の概要(藤岡瑠音)

Localization of collagen subtypes, which consist the articular surface
軟骨最表層の構造

軟骨最表層の構造

はじめに:関節軟骨は一般的に細胞の形態、基質の含有により表層、中層、深層の三層に分類される。しかし、関節の潤滑な動きに重要な役割を担うであろう最表層と呼ばれる層が、表層より更に関節面側に存在することは、あまり注目されていない。最表層に関するこれまでの報告では、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型顕微鏡のいずれかが用いられてきたが、得られた最表層の像は手法により様々で一定化していない。そこで本研究では、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用い、組織学的、免疫組織学的手法を組み合わせた最表層各層の構造・構成成分の比較を行なった。

手法:ブタの膝関節軟骨を用いて、組織化学染色及びⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型コラーゲンに対する免疫染色を行い、光学顕微鏡、及び透過型、走査型電子顕微鏡による観察を行った。

軟骨最表層のSEM像

結果:光学顕微鏡観察により、関節軟骨の最表層はプロテオグリカンに乏しく、方向性をもったコラーゲン性の層を含んでいることが明らかとなった。また、透過型、走査型、及び免疫電子顕微鏡による観察から、最表層は三層構造に分けられた。最表面から第一層、次いで第二層が存在した。第一層は透過型電子顕微鏡では電子密度の高い層として観察でき、無定形物質からなる層であった。第二層は透過型電子顕微鏡でのみ、低電子密度層として確認された。これらの層にはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型いずれのコラーゲンも含まれていなかった。一方、第三層は透過型電子顕微鏡では識別できないが、線維の密度や走行から走査型顕微鏡で下層と区別して観察された。この第三層はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型コラーゲンにより構成されていた。第三層の下層は、Ⅱ型コラーゲンから構成されるコラーゲン線維と紡錘形の軟骨細胞からなる、いわゆる表層であった。表層にはⅠ型、Ⅲ型コラーゲンはほとんど分布していなかった。

考察:最表層を構成する三層の中でも、より表面に存在する第一層と第二層では、コラーゲンやプロテオグリカンなどの軟骨構成成分が認められず、第三層はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型コラーゲンにより構成される事が示された。これらのことから、第一層、二層は第三層以下の軟骨構造とは異なる構成帯であり、第三層は軟骨構成成分であるⅡ型コラーゲンを含むとともに、この層に特異なⅠ型、Ⅲ型のコラーゲンサブタイプを含み、独立した構造体を構成していることが示された。

7. Fujioka R, Aoyama T, Takakuwa T, The layered structure of the articular surface, Osteoarthritis Cartilage, 2013, 21, 1092-1098 doi: 10.1016/j.joca.2013.04.021

脈絡叢の形成; Anat Recに掲載(白石修論)

側脳室内の脈絡叢(正面)

白石くんの修士論文”Morphogenesis of lateral choroid plexus during human embryonic period” -ヒト胚子期における側脳室脈絡叢の形態、組織学的研究-がAnatomical Recordに掲載されました。

  • CS18 – CS23 における脈絡叢 (CP) の形成を検討。
    • CS19 ;CP の原基、尾側に成長した小さな三日月形の塊として検出
    • CS20; 多数の起伏のある表面
    • CS21 で不規則な膨らみを形成、全方向に成長
    • CS23 で尾側表面に 2 つの深裂、 3 つの大きなクラスターを形成
  • 近位領域は未分化な上皮、血管芽細胞が増殖、遠位領域は分化、分葉化した組織を観察
近位領域では未分化な上皮、血管芽細胞が増殖、遠位領域では分化、分葉化した組織がみられる。

6. Shiraishi N, Nakashima T, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Morphogenesis of lateral choroid plexus during human embryonic period, Anat Rec (Hoboken). 2013 Apr;296(4):692-700. doi: 10.1002/ar.22662

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Abstract

The morphological and histological changes of the choroid plexus (CP) during Carnegie stage (CS) 18 and CS23 were presented, based on magnetic resonance imaging data and histological serial section of human embryos from the Kyoto Collection of Human Embryos. The primordium of the CP was initially detected as a small lump at CS19 that grew caudally, so that the CP became crescent shaped. It developed in all directions after CS21, as the dorsal and frontal growth also became prominent. The CP formed a number of undulating surfaces at CS20, irregular bulges at CS21, and then three large clusters with two deep fissures on the caudal surface at CS23. The mean volume of the CP was 0.282±0.141 mm3 at CS19; it reached 16.8±8.77 mm3 at CS23. Additionally, the histology was different depending on the regions of the CP at all stages after CS20. The epithelium and angioblasts in the center of the stroma were proliferated in the proximal region, whereas the epithelium was differentiated and lobulated in the distal region where the blood vascular system was organized. The histological differentiation was mapped on the CP reconstructed from histological serial sections. The data suggested the correlation between morphological information obtained from magnetic resonance data sets and distribution of the differentiation. With the help of morphological analysis and histological findings, we have been able to categorize each CP into specific stages. These findings will be useful in clinical evaluation of development during the embryonic period.

2012年度;修士論文の概要(白石直樹)

Morphogenesis of lateral choroid plexus during human embryonic period
ヒト胚子期における側脳室脈絡叢の形態、組織学的研究

白石直樹

背景;脈絡叢は脊髄液を産生する組織であり、脳神経の発達や血液脳関門において重要な役割を果たしている。本研究では、ヒト胚子期の側脳室脈絡叢の形態学的特徴の変化を発生段階の指標であるカーネギー発生段階(CS)ごとにMR画像と組織切片とを用いて解析し、発生過程を定量化した。
対象・方法;MR顕微鏡で撮像された1204体の胚子MR画像の中で、外表形態及び脳、脊髄に明らかな異常が見られない胚子のうちCS19~23の合計49個体を用いて、脈絡叢の三次元立体像を作成し、解析を行った。CS18~23に該当する合計41体の胚子組織切片を用いて、脈絡叢の発生過程を組織学的に観察した。さらにCS21の胚子組織切片を立体化することで、組織情報を三次元立体像に当てはめ、MR画像から作成した脈絡叢立体像と比較、検討した。
結果;脈絡叢をCSごとに三次元立体化することで、その形態形成や表面の形状に特徴的な変化がみられた。CS20ではなだらかな表面であったが、CS21、22では多くの不規則な凹凸が観察された。しかしCS23ではそれらは観察されず、代わりに3カ所の大きな隆起が観察された。これはCS21、22からLobulationが盛んになり、CS23では水腫様に膨張し、Lobulationが少なくなるという組織観察での所見と合致している。CS23で観察された3カ所の大きな隆起は、胎児期にみられる毛細血管構造に合致していると考えられた。脈絡叢体積はCS19で0.282±0.141mm3 からCS23で16.8±8.77 mm3と約60倍に急速に増加した。同時期の側脳室に対する側脳室脈絡叢の割合は4.84±2.52%から21.5±4.13%と側脳室脈絡叢は側脳室に対して、より急速に増大していた。組織学的な観察ではCS21では低分化な領域(前方、正中側)と高分化な領域(後方、外側)が観察された。低分化な領域では造血や血管生成が盛んに行なわれており、上皮は偽重層したままであった。高分化な領域ではLobulationが進み、間質には血管が既に完成しており、上皮は単層で細胞質にはグリコーゲンだと考えられる空胞を有していた。これらの観察結果から、側脳室脈絡叢はparaphysisに対して近位の部分で主に増殖し、分化したのち、遠位部分に押し出されていくのではないかと考えられた。組織学的に低分化な領域は前方、正中側に存在するなだらかな表面の領域に合致し、高分化な領域は不規則な凹凸や、大きな隆起のある領域に合致した。
考察;上記の形態計測学的な解析と組織学的な観察結果をまとめることによって、従来提唱されていた側脳室脈絡叢の発生段階を、より細かなCSに応じて細分化した。本研究で得られた結果は、胚子期の脈絡叢の発生を精確に定量化し、胚子期の脈絡叢の発生を評価する基準値になる可能性を示した。今後、個体数を増やしさらに精確性を増すことで、胎児早期診断の発展に貢献することが期待される。

4. Shiraishi N, Nakashima T, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Morphogenesis of lateral choroid plexus during human embryonic period, Anat Rec (Hoboken). 2013 Apr;296(4):692-700. doi: 10.1002/ar.22662