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廣瀬さんの修論がAnat Recに掲載されました。

廣瀬さんの修論_ヒト胚子期の肝臓の形態形成がAnat Recに掲載されました。

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隣接器官が肝臓形態形成に影響をおよぼす
  • 肝臓の形態形成は、隣接する臓器や組織の影響を強く受ける。
    • -CS16;左心室は左内側 – 尾側に発達し、左内側領域にくぼみを形成
    • CS16-CS19腹側領域に臍によるくぼみの形成
    • CS17 -CS19;肝臓の頭側の両側に隆起が形成
    • CS20:背側-尾側領域に右副腎にるへこみ
    • -CS23;背側左内側領域に胃の痕跡
  • 肝臓の体積は CS14 -CS23 にかけて指数関数的に増加。
    • CS17まで;背腹軸と左右軸に沿って優先的に発達し、
    • CS17-CS19頭尾軸に沿って発達
    • CS19以降;全方向に発達
  • 横隔膜の分化、胚の体軸の延長、生理学的臍帯ヘルニアなどが計測データに影響
  • データは、肝臓の発達と隣接臓器の形態形成を時間的,空間的に理解するのに有用
肝臓の形態形成(CS15-CS23)

胚子期において肝臓は腹腔内最大の実質器官であり、造血・代謝を担い、胚子や胎児の成長に大きく影響を与えている。しかし胚子の肝臓の発生、特に形態の変化に関しては現在ほとんど知られていない。そこでMR顕微鏡によって撮像された約1200例の胚子MR画像のうちCarnegie Stage(CS)14~23の67例を用いて、胚子期の肝臓の形態学的解析、形態計測学的解析、及び肝内血管系の解析を行った。

形態学的解析では胚子における肝臓及び周辺器官である心臓・肺・胃・後腹膜器官の立体画像を作成し、肝臓の形態学的変化を観察した。その結果、肝臓はCSと連動して周辺器官による陥凹や平面の形成、およびその消失という特徴的な形態変化を起こしていることが明らかになった。肝臓は頭側では心臓と接してり、CS17・18において心陥凹を形成する。心陥凹はCS20で消失し、CS22・23では横隔膜により隆起が形成される。背側では胃と接しており、CS15から胃陥凹を形成している。胃陥凹は胃の発達に伴って胃全体を覆うように変化する一方、十二指腸球部によりCS19から平面を形成する。背側右方ではCS20以降副腎陥凹が形成される。また腹側ではCS17・18に臍陥凹が形成されるが、CS20には消失する。一方で肺、左側副腎、後腎、生殖腺は肝臓に隣接しているが、形態学的な影響は明らかでない。これらの結果から、各CSにおける肝臓の形態とその変化を詳細に知ることができ、また肝臓は心臓・横隔膜・胃・右副腎の形態を反映していることがわかった。これは肝臓を観察することで肝臓だけでなく周辺器官の形成不全や形態異常を発見できることを意味する。

形態計測学的解析では計測した肝臓の容積・断面積・3次元的分布、及び胚子の体積・腹部断面積・Trunk Height(TH)の全てにおいて、CSが進むとともに値が増加した。また、各CSにおける肝臓の縦径に対する横径及び厚みの比はCS14から17では値が増加、CS17から19では減少する傾向がみられた。肝臓の縦径に対するTHの比を計算するとCS14から17においてはほぼ一定であるが、CS17から19において急激に増加し、しかしCS20から23では再び変化が小さくなる。これは肝臓はCS17までは主に横断面における平面状の発生が進むに対して、CS18からは頭尾方向への発生が顕著である事を意味する。これらの結果から、肝臓の発生における計測基準を設け、より明確に肝臓の発生の様子を表すことができたと考えられる。

肝内血管系の解析では、各CSにおける主要な肝内血管の形成状態とその位置関係を観察した。CS17以降では約70%の胚子において左・中・右肝静脈が見られ、血管形成においてもCSとの相関が見られた。本論文では胚子期における肝臓の発生及び周辺器官との関係を詳細に表すことができたといえる。将来的には妊娠初期の胎児診断における重要な基礎的データとなると考えられる。

1. Hirose A, Nakashima T, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Embryonic liver morphology and morphometry by magnetic resonance microscopic imaging ,  Anat Rec (Hoboken). 2012 Jan;295(1):51-9., doi; 10.1002/ar.21496

Abstract

Embryonic liver has a unique external morphology and quantitative morphometry, based on magnetic resonance imaging data of human embryos from the Kyoto Collection of Human Embryos. Liver morphogenesis is strongly affected by the adjacent organs and tissues. The left ventricle develops to the left medial-caudal side, which results in the formation of a depression at left medial region and a prominence bilaterally at the cranial surface of the liver between Carnegie Stage (CS)17 and CS19. An imprint of the stomach that formed at the dorsal left-medial region of the liver became more marked with development until CS23. A depression induced by the umbilicus formed at the ventral region of the liver between CS16 and CS19. An indentation caused by the right adrenal gland formed at the dorsal-caudal region of the liver surface from CS20. Morphometric analysis revealed that the volume of the liver increased exponentially from CS14 through CS23. The liver developed preferentially along the dorsoventral axis and right/left axis until CS17, along the craniocaudal axis between CS17 and CS19, and then in all directions after CS19. Several important developmental phenomena, such as differentiation of the diaphragm, the extension of the body axis of the embryo, and the physiologic herniation of the intestine into the umbilical cord, may affect morphometric data. These data contribute to a better understanding of liver development as well as the morphogenesis of adjacent organs, both temporally and spatially, and serve as a useful reference for fetal medicine and prenatal diagnosis.

2010年度;修士論文 (廣瀬、中島)

ヒト胚子期における周辺臓器による肝臓の形態形成への影響
廣瀬あゆみ

胚子期において肝臓は腹腔内最大の実質器官であり、造血・代謝を担い、胚子や胎児の成長に大きく影響を与えている。しかし胚子の肝臓の発生、特に形態の変化に関しては現在ほとんど知られていない。そこでMR顕微鏡によって撮像された約1200例の胚子MR画像のうちCarnegie Stage(CS)14~23の67例を用いて、胚子期の肝臓の形態学的解析、形態計測学的解析及び肝内血管系の解析を行った。形態学的解析では胚子における肝臓及び周辺器官である心臓・肺・胃・後腹膜器官の立体画像を作成し、肝臓の形態学的変化を観察した。その結果、肝臓はCSと連動して周辺器官による陥凹や平面の形成、およびその消失という特徴的な形態変化を起こしていることが明らかになった。肝臓は頭側では心臓と接しており、CS17・18において心陥凹を形成する。心陥凹はCS20で消失し、CS22・23では横隔膜により隆起が形成される。背側では胃と接しており、CS15から胃陥凹を形成している。胃陥凹は胃の発達に伴って胃全体を覆うように変化する一方、十二指腸球部によりCS19から平面を形成する。背側右方ではCS20以降副腎陥凹が形成される。また腹側ではCS17・18に臍陥凹が形成されるが、CS20には消失する。一方で肺、左側副腎、後腎、生殖腺は肝臓に隣接しているが、形態学的な影響は明らかでない。これらの結果から、各CSにおける肝臓の形態とその変化を詳細に知ることができ、また肝臓は心臓・横隔膜・胃・右副腎の形態を反映していることがわかった。これは肝臓を観察することで肝臓だけでなく周辺器官の形成不全や形態異常を発見できることを意味する。形態計測学的解析では計測した肝臓の容積・断面積・3次元的分布、及び胚子の体積・腹部断面積・Trunk Height(TH)の全てにおいてCSが進むとともに値が増 加した。また、各CSにおける肝臓の縦径に対する横径及び厚みの比を計算するとCS14から17では値が増加、CS17から19では減少する傾向がみられた。肝臓の縦径に対するTHの比を計算するとCS14から17においてはほぼ一定であるが、CS17から19において急激に増加し、しかしCS20から23では再び変化が小さくなる。これは肝臓はCS17までは主に横断面における平面状の発生が進むに対して、CS18からは頭尾方向への発生が顕著である事を意味する。これらの結果から、肝臓の発生における計測基準を設け、より明確に肝臓の発生の様子を表すことができたと考えられる。肝内血管系の解析では、各CSにおける主要な肝内血管の形成状態とその位置関係を観察した。CS17以降では約70%の胚子において左・中・右肝静脈が見られ、血管形成においてもCSとの相関が見られた。本論文では胚子期における肝臓の発生及び周辺器官との関係を詳細に表すことができたといえる。将来的には妊娠初期の胎児診断における重要な基礎的データとなると考えられる。

1. Hirose A, Yamada S, Takakuwa T et al, Embryonic liver morphology and morphometry by magnetic resonance microscopic imaging , Anat Rec (Hoboken). 2012 Jan;295(1):51-9.  (概要)

ヒト胚子期における脳神経管の形態計測学的解析 
中島崇

ヒト胚子の脳室立体像

本研究では、ヒト胚子期の脳神経管及び脳室の形態学的特徴の変化を発生段階の指標であるカーネギー発生段階(CS)ごとに形態計測学的に解析し、発生過程を定量化した。MR顕微鏡で撮像された1204体の胚子MR画像の中で、外表形態及び脳、脊髄に明らかな異常が見られない胚子合計177個体を用いて、脳神経管の平面画像と脳室の平面・立体像を作成し、解析を行った。脳神経管は、マクロ形態を用いて前脳、中脳、菱脳に区分し脳胞長を計測した。脳室は、各CSの胚子が一方向から観察できる頭尾軸を設定し、脳室線、体積、幾何学的図形への近似による計測を行った。脳神経管の計測では、脳胞背側長、腹側長はCS18からCS23の間は増加し、背側の方が増加量が4.2倍多かった。前脳、中脳、菱脳に区分し比較すると、背側、腹側とも前脳の増加量が最も多く背側は腹側の3倍以上であった。これらの結果は、胚子期の脳胞発生の特徴である終脳の急速な増大を反映していると考えられた。 側脳室の側面から計測した背側線、腹側線は、CS16からCS23の間は大きく増加し、特に背側はCS20からCS23の間では9.10mmと著明に増加した。体積もCS16からCS23の間は大きく増加し、特にCS20からCS23の間では94.87mm3と著明に増加した。側面から見た背腹線の円弧への近似では、CS16からCS18の間は中心角は背側、腹側とも増減がほぼ見られず半径のみが増加し、CS18からCS23の間では中心角、半径は背側、腹側ともに増加した。これらの結果は、終脳が「CS19になると頭側方向に大きくなり、CS22、23には間脳全体を覆い形態的にも湾曲し大脳半球の”回転”も起こり始める」というこれまでの知見に合致すると考えられた。側脳室の定量的評価は、胚子期の終脳実質部分がそれほど発達せず側脳室の計測は終脳の発生変化を反映すると考えられることから、有用であると考えられた。第4脳室の側面から計測した背側線、腹側線は、CS16からCS23の間は背側は3.01 mm、腹側は2.20 mmを推移し大きな変化は見られなかった。頭側から観察した計測値はCS16からCS18の間は左右、背腹最大長とも増加したが、CS18からCS 23の間では左右長は増加したが、背腹長は増減はほぼ見られなかった。体積はCS16からCS18の間は14.50mm3増加し、CS18からCS 21の間では6.77mm3減少し、CS 21以降は再び増加した。これらの結果は、CS17頃から顕著になる橋屈がCS 20、21では小さくなることを反映していると考えられた。 本研究で得られた結果は、胚子期の脳神経管の発生を精確に定量化し、胚子期の脳神経管の発生を評価する基準値になる可能性を示した。今後、個体数を増やしさらに精確性を増すことで、胎児早期診断の発展に貢献することが期待される。

2. Nakashima T, Hirose A, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Morphometric analysis of the brain vesicles during the human embryonic period by magnetic resonance microscopic imaging, Congenit Anom (Kyoto). 2012 Mar;52(1):55-8, doi; 10.1111/j.1741-4520.2011.00345.x (概要), [OpenAccess]

4回生から約3年かけた力作になりました。英語論文として発表することもできました。ご苦労様でした。

2009年度;修士論文(金谷、丸山)

癌Hras1遺伝子はSL/Khマウスにおいてリンパ腫発症時にみられる
レトロウイルス挿入好発部位のひとつである 金谷和哉

SL/Khマウスはproto-SL、AKRをprogenitorとする近交系マウスで、90%以上が6カ月齢以内にpre-Bリンパ腫を自然発症する。このマウスは遺伝的に内在性マウス白血病レトロウイルスのひとつであるAKV-1の挿入を獲得している。SL/Khマウスにおけるリンパ腫発症において、プロウイルス由来のレトロウイルスが宿主ゲノム内へと後天的に再挿入することに起因した癌遺伝子活性化の可能性を考え、pre-Bリンパ腫を発症したSL/Khマウス個体の
リンパ腫組織由来のgenomic DNAを用い、Inverse PCR法によりAKV-1の挿入部位の同定を試みた。AKV-1の挿入好発部位としてはこれまでStat5aEvi3c-mycN-mycStat5bなどが同定されているが、今回新たにマウス第7染色体上の癌遺伝子Hras1のexon1およびintron1領域が挿入好発部位であることが明らかになった。挿入部位は近接する3か所に限定されており、同部位へのAKV-1挿入はリンパ腫を発症したSL/Khマウス130個体中7個体(5.4%)で認められた。挿入部位はHras1遺伝子のタンパク翻訳領域の上流に位置しており、翻訳されるタンパクは欠損や変異のない機能的なタンパクであると考えられる。AKV-1挿入ありの個体においてHras1遺伝子および融合遺伝子の発現の有無を検討したところ、検討したすべての個体でHras1遺伝子の発現が認められ、AKV-1のプロモーターによる発現であることがわかった。AKV-1とマウスの融合遺伝子は検討した4個体中2個体でHras1遺伝子のintron1領域の一部がスプライシングされたmRNAの発現が認められた。スプライシング部位はAKV-1挿入部位によらず共通していた。Hras1遺伝子へのAKV-1の挿入によるマウス宿主への影響を評価するため、AKV-1挿入ありの個体と挿入なしの個体を用いてHras1遺伝子およびHras1タンパクの発現量を検討した。遺伝子およびタンパクの発現量はAKV-1挿入ありの個体で高く、タンパク発現の上昇は有意であった(P=0.0038)。癌遺伝子Hras1のタンパク発現の上昇が、リンパ腫を発症したSL/Khマウスにおいてその発癌の機序に何らかの関連性があるのではないかと考えられる。

B-lymphoblastic lymphoma(B-LBL)を自然発症するSL/Khマウスにおける内因性レトロウイルスの特定 丸山泰弘

SL/Khマウスはproto-SL、AKRをprogenitorとする近交系マウスで、生後約半年でその個体の90%以上がB細胞芽球型リンパ腫を自然発症する。これまでのサザンブロット(SB)解析で、このマウスは遺伝的に少なくとも7カ所への内在性マウス白血病レトロウイルス(MuLV)の挿入を獲得していると推察されている。このMuLVの挿入部位を特定し、その挿入が近傍遺伝子に影響を与えているか、それがリンパ腫の発症と関連があるかどうかを検討するために今回の研究を行った。

マウスgenomeを制限酵素で切断し、セルフライゲーション後、インバースPCR法を用いて挿入部の増幅を行った。得られたPCR産物を用いてダイレクトシーケンスを行い、データベースと比較検討した。その結果、以下の4か所の挿入部位が特定できた。

a:染色体2H2上で、挿入部位からセントロメア側に10761 baseのところに遺伝子、Commd7が存在した。Commd7全長約14Kbpで7個のExonを持つ遺伝子である。COMM domainはNF-κBの規制と、銅代謝の調整を行っているMURR1と相同性がある。

b:染色体15F1上で、挿入部位からテロメア側に5646 baseのところに遺伝子、olfr234が存在した。olfr234は全長522bpの遺伝子であり、臭いの感知に関係する受容体をコードしている。

c:染色体7A1上で、遺伝子Gltscr1の第5イントロン領域にMuLVの挿入部位が存在した。Gltscr1は全長28Kbpで14個のExonを持つ遺伝子で、乏突起膠腫の発症に関係しているが、詳しい機能はよくわかっていない。ヒトでは脳、肝臓など主要臓器に発現していることが報告されている。

d:染色体1A5上で挿入部位からテロメア側に42718 baseのところに遺伝子、Smap1が存在した。Smap1は全長75Kbpで10個のExonを持つ遺伝子である。骨髄のstromal細胞の表面分子をコードしており、赤血球産生に関係していると考えられている。

これらのうちGltscr1は遺伝子内にMuLVの挿入部位が認められたことから、MuLV挿入がGltscr1の発現に影響を及ぼしているかどうかを検討した。RT-PCR法を用いた定性的検討ではBALB/cマウスの脳、腎臓、肝臓、脾臓で遺伝子の発現が認められた。SL/Khマウスの脳、脾臓でも同様に発現が認められた。このことから、マウスにおいてもGltscr1は主要臓器でヒトと同様に発現していると考えられた。

次に、Gltscr1の発現をMuLV挿入部位の5’側(上流)、3’側(下流)に分けて定量的に検討した。上流では、BALB/cマウスの脾臓、SL/Khマウスの脳、脾臓、リンパ腫で発現が検出できたものの、BALB/cの脳では発現が検出できなかった。下流ではSL/Khマウスのリンパ腫で微弱な検出ができたものの、検討した他のsampleでは検出できなかった。コントロールとして用いたBALB/cマウスでの発現が検出できなかったので、MuLV挿入による影響を判断するには至らなかった。

Gltscr1内へのMuLV挿入がリンパ腫の発症と関係するかどうかは引き続き検討する必要があると考えられた。