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胎児超音波検査 (産婦人科領域のエコー) について

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超音波検査は生体への侵襲の低さが最大の利点であり,母児に対して行う「胎児超音波検査(産科エコー)」は、画像診断法として 広く普及している検査法です。妊娠中に行う胎児超音波検査の目的は,胎児の発育・形 態・機能,さらに胎盤・羊水・臍帯を評価することにより,胎児自身の状態および胎児が 置かれている環境を把握することにあります。超音波診断装置の性能は年々向上し、最近では以前とは比べ物にならないほど胎児の詳細な情報がわかるようになってきました。

一方、胎児の病気の有無を調べる目的でなくても、超音波検査を行うと、偶然、胎児の重大な病気が見つかってしまうこともあるので、注意が必要です。偶然異常が見つかった場合、妊婦や家族に、検査結果をどう解釈すべきかや、どのような対応が選択できるのかなどを十分に伝える必要があるからです。

超音波検査は高度な専門技術、知識が必要とされ、専門の資格を有する「超音波検査士」が行うことが多くなっています。「超音波検査士」は超音波検査に習熟した医療従事者が一定の条件を満たした場合に得られる日本超音波医学会の認定資格です。胎児超音波検査を含む産婦人科領域は、主要な超音波検査領域の一つです。

私達の研究室では、胎児超音波検査のトレーニングを受けつつ、胚子、胎児研究を進められるよう体制を整えています。

先天異常標本解析センターと京都コレクション

西村秀雄教授

1970年ころ

1961年、京都大学医学部解剖学第三講座 の西村秀雄教授は、人工妊娠中絶によって得られたサンプルを協力産婦人科医により収集するプロジェクトを開始しました。当時、妊娠初期につわり等の薬としてサリドマイドを服用した方から、短肢症等の先天異常児がうまれる危険性があることが顕在化し、社会問題となっていました。1975年「ヒトの胎児医学と先天異常の予防」に関する研究を目的として先天異常標本解析センターが設置されました。1961年以来収集されてきたヒト胚子および胎児の標本とその記録が保存され、これまでに集められた標本数は44,000例に上っています(京都コレクション)。器官形成期に当たる受精後8週までの損傷のない胚子約1,000例は、全身の連続組織標本として保存されており、そのうち特に上質のもの474例はヒト胚子の国際登録に含まれ、その例数は米国カーネギー発生研究所の617例に次ぐものとなっています。このように京都コレクションは質・量ともに世界最大規模のものであり、国内外の関連分野の研究者の利用に供されています。

胚子の連続組織切片、センターには500例近くの標本が保管されている。

また先天異常標本解析センターでは、現在、先天異常の初期病理発生過程の研究、遺伝疫学的方法による各種先天異常の病因解明、さらに実験的研究による先天異常の発生メカニズムや予防に関する研究を推進しており、ヒト発生学および先天異常研究の世界的な中心の一つとなっています。
京都コレクションは、二度と得ることができない大変貴重な標本群といえます。ですから、将来の不測の事態などに備えると共に、ヒトの発生学、遺伝学に寄与するために恒久的な保存が必要です。そこで京都コレクションを使用した器官形成期から出生までの各発生段階の胎児のMR画像のデータベース化、さらにMR断層画像、連続切片像から、各発生段階の胎児の形成および主要臓器の三次元立体画像を作成・データベース化する「ヒト胚の三次元データベース構築」事業が科学技術振興機構バイオインフォマティクス推進事業(2005-11)に採択され実施されました。(代表;塩田浩平教授、 筑波大学大学院 数理物質科学研究科(巨瀬研究室)などとの共同)

 

先天研開設40周年記念号;Anatomical Record 2018年301巻6号

京都コレクションは他に、次のような特長があります。

1)当コレクションは、殆どが人工妊娠中絶由来で特別な選択をかけていないので、妊娠初期の子宮内の胚子集団を反映している

2)大多数は受精後3~8週の「器官形成期」の標本で、重要な発生段階に相当する。

3)外形異常胚が多く含まれている(Matsunaga & Shiota, Teratology, 1977)。

4) 各症例のマクロ写真、書誌データ(妊娠歴、標本観察データなど)を有する。

5) 外表正常および異常の約500例のヒト胚連続組織切片を有している。

 

“咽頭胚期” (CS12) の類似性とその意義

ヘッケルの”有名”な発生と進化の教科書の図より
この図は”でっちあげ”の図とも言われている

脊椎動物は、発生の中途で極めて似た形態をとる時期があります。この時期から僅かに発生が進むだけで、それぞれの胚は外観をかえ、その成人の姿を容易に推察できるようになります。ヘッケルが「ある動物の発生の過程は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われる」、いわゆる反復仮説を唱えたのもこういった観察に基づくものでした。ヘッケルの反復説が19世紀当時、大きな注目・支持を集めた理由は、個体発生と系統発生の間にあった多くの観察事例とその傾向を、非常にシンプルに説明するようにみえたからでしょう。

この類似の形態はいわゆる“咽頭胚期”と言われる時期に相当します。頭部、尾部があり、その間が分節化した構造をもつこと、この頭尾軸に沿って、神経管、消化管があること、心臓、鰓孔があることなど…この形態は、多様な脊椎動物の共通項を抜き出したものといえるかもしれません。この類似性の高い段階をPhylotypic stageといいます。

どうして、こんなに似ているのでしょうか。それは、脊椎動物がこの時期に体の構成”body plan”の概要を決定するからで、進化的に変更が効きにくかったからだと言われています。最近の遺伝子の発現パターンをみた研究では、body planに関連した重要な遺伝子が、この時期多く発現し、その発現パターンは種間で驚くほど類似していることが示されています。このように動物が個体発生を行う際、その発生中期に進化的な変更を最も加えにくい時期が存在するという考えを発生砂時計モデルといいます。

ところで、この咽頭胚期ですが、ヒトではCS12に相当すると考えられられます。ヒトのこの時期より若い時期の胚についての研究は、進んでいるとは言えません。受精28日未満の時期であり、妊娠そのものが自覚できていない時期であること、3mm程度と非常に小さいこと、個体の形状が保持しにくいことなどの理由で、解析個体が得にくく、解析も困難だったからです。私たちは、組織連続切片をデジタル化し、最新のコンピュータ、ソフトウエアを使用して、この時期の胚子の研究にも取り組んでいます(22 Ueno et al)。

22. Ueno S, Yamada S, Uwabe C, Männer J, Shiraki N, Takakuwa T, The digestive tract and derived primordia differentiate by following a precise timeline in human embryos between Carnegie stages 11 and 13, Anatomical Rec 2016,  299, 439-449, DOI: 10.1002/ar.23314s,  (概要)

胃の形態の個体差について

子供は大人の相似形であるーというと、多くの人は反論するでしょう。少なくとも医療に従事する人でそんな乱暴な考えをもつ人はいるまい。では、ヒトの胚子の胃はどうでしょうか。最近の発生学の教科書で胃の発生の項をみますと、その絵の多くは、胃薬のコマーシャルに書かれるような絵で、本によっては「大人と相似形である」と堂々と書かれたものもあります。多分最近の教科書で勉強した医学生はヒトの胃は大人と相似形であると信じて疑わないのではないでしょうか。

デジタル化の恩恵で、以前だったら探しだすのを諦めるような古い文献も用意に入手できるようになりました。文献を遡り、ちょうど100年前にLewisという人が書いた論文に胃の形態に関するものがあります。(Am J anatomy 1912)

この論文は数例の胃の立体像の観察を記したもので、現在の教科書の胃の形態とは大きく異なります。はたして、研究材料として使用しているMRI dataをもとにわれわれがヒト胚子期の胃の形態を3次元化したところ、随分変わった形の胃が出来上がりました(8. Kaigai et al, 2014)。それはまさにLewisの絵の特徴と一致していました。そして、同じ時期のものでも個体による差があるということ、ヒト胚子の胃は十人十色であるということが新たにわかりました。

生化学や分子生物学等の進歩は実験発生学の発展をもたらしました。一方で記述中心の古典的な発生学、とくにヒトを材料とした発生学は1960年代を境にあまり行われなくなりました。私たちが研究を進める上で参考にする論文は、Lewisの胃の論文のような古典的なものがしばしばあります。実に忠実に描出された形態模写をみると、私たちの観察結果についての支持がえられた安堵感とともに、いにしえの研究者と時空を超えた交流を通して、その熱情に触れ、学術的な論文でありながら心温まるものがあります。

8. Kaigai N, Nako A, Yamada S, Uwabe C, Kose K, Takakuwa T, Morphogenesis and three-dimensional movement of the stomach during the human embryonic period, Anat Rec (Hoboken). 2014 May;297(5):791-797. doi: 10.1002/ar.22833 ,  2014 May;297(5):C1. doi: 10.1002/ar.22774. (概要), [OpenAccess]

胚子期の脳血管の走行 (Padget 1948)

胚子期の脳血管の精巧な図である。Padgetはもともとはillustratorとして入職したが、高い観察能力が評価され研究者( Neuro science)になった。

Padget DH. 1948. The development of the cranial arteries in the human embryo. Contr Embryol 12: 205-261.

ヒト胎児の胃の形態 (Lewis 1912)

食道からの円錐状の広がり、噴門部の突出が特徴的である。最近出版されているヒト発生学の教科書には、こういった形態の胃はみられない。

Lewis FT. 1912. The form of the stomach in human embryos with notes upon the nomenclature of the stomach. Am J Anat 13(4):477–503.

肝臓について (Mall 1906)

80ページを越えるMallの論文では、肝内部の脈管構造、組織構築が詳細に観察されている。一方で、外表観察は、申し訳程度であった。ー肝臓は上面のみに発生段階毎の規則性がみられる。腹腔内への広がりは腹腔内の空間にあうように成長するため規則性はない (3例の胚子肝臓の観察から-Mall 1906)ー。肝臓は腹腔内最大の器官であり、胚子期には腹腔のほぼ全体を占める。場所を失った消化管は臍帯(へそ)の中に避難する、と一般的には解釈されているが、果たして肝臓は腹腔を「占拠する」のか、「隙間を埋めている」のか?。

It is seen that only their upper surfaces are regular in form from stage to stage; the processes extending into the abdominal cavity are irregular, to fit into the spaces that there are for them to grow into.

ヒト胚子・胎児の研究に3次元情報取得技術を応用する理由

ヒトの発生について

図1Carnegie stage ごとの発生の特徴

 精子と卵が受精することでヒトの発生は始まり、受精後38週で生まれる。そのうち3-9週は器官を形成する重要な時期で、胚子期とも呼ばれる。わずか数週間の間に胚子はダイナミックな変化を遂げ、ヒトらしい形態になる。また、この時期はさまざまな異常発生をおこす危険性がある臨界期でもあり、先天異常の研究にとって重要な時期といえる。

 ヒトの胚子は、同一の胎齢であっても発生の進行に個体差がみられたり、受精日の特定が難しいことなどから、胚子の大きさや胎齢によらず、形態学的分化の特徴によって発生の段階を表す方法として、カーネギー発生段階(Carnegie stage; CS)が研究領域では広く使用されている。これは、カーネギー研究所を中心に20世紀に行われたヒト胚子研究を基盤にStreeter, O’Rahillyらが提唱したものである。CSでは受精から、骨髄形成が長管骨に認められるまでの約8週を23の段階に分けている(図1)。

 胚子期の発生は3次元的な形状の変化を伴う。その複雑な変化を明らかにし理解説明するためには、3次元空間に時間軸を加えた4次元的な解析が必要になる。ヒトの組織発生学の研究は19世紀後半から1世紀以上、連続組織切片の作成、すなわち 標本を固定、包埋後、全身を5-20μm程度に連続に薄切し顕微鏡観察標本を作成する方法、を用いて解析を行ってきた。同法は大変な労力、熟練した技術が必要であり、切片を作成すると胚子がひとつ失われる、他の面で観察することはできない、別の用途には使用できない、標本の破損、染色の退色等、様々な問題がある。

図2MR顕微鏡を用いたヒト胚子画像と脳立体再構成像

 近年、CT, MRI等を利用した3次元情報の取得技術は進歩しており、筆者らはヒト胚子の画像取得・解析に同技術を応用している。長所として1)精確な、高解像度の3次元座標を取得できること、2)デジタルデータの特性をいかせること、たとえばレンダリングによる形状抽出、二次元の断面像を任意に取れる、多くの個体の比較検討が容易であること、標本の外観に加えて、各器官の定量、可視化も可能であること、4)新たな取得が容易ではない貴重なヒト胚子を壊すことなく研究を進めることができること、5)古典的な組織形態学的アプローチの限界が克服できること-(発生がすすむにつれ、胎児が指数関数的に大きくなり、軟骨形成や骨化も始まることから、解析する労力も指数的に大きくなること、さらに発生現象は立体像に加え時間軸も加わるため、古典的手法で網羅的な解析をするのは非現実的である)-等があげられる。

 筆者らは得られた立体情報の特性を活かし、従来の形態観察(立体像の観察、単純な測定)を行うとともに、多元計算解剖学的解析に取り組んでいる。ヒト発生解剖学への応用には、下記のような課題が挙げられる。

対象が小さい(数mm〜50mmくらい)(図2)。小さい個体から、いかに高解像度、正確な立体情報を得ることが出来るか。精確な立体情報があって、始めて数理解析、モデル作成等の解析を行うことが可能になる。

十分な個体数が得られるか;倫理的問題、損傷のない個体を取り出す技術の問題、保存の問題等から多数の個体を入手することが難しい現状がある。

発生学固有の問題:適切な解剖学的な点抽出の際、画像が高解像度になっても、発生の途中で重要な解剖学的な点が出現すること、また、発生段階ごとに対応する解剖学的点を正確に抽出することが難しいこと等があげられる。

参考文献

Nishimura H et al. Normal and abnormal development of human embryos: first report of the analysis of 1,213 intact embryos, Teratology, 1, 281–290, 1968.

O’Rahilly R, Müller F. Developmental stages in human embryos: including a revision of Streeter’s Horizons and a survey of the Carnegie Collection. Washington DC, Carnegie Institution of Washington, 1987.

Shiota K et al. Visualization of human prenatal development by magnetic resonance imaging (MRI), Am J Med Genet A, 143A, 3121-6, 2007.

Shiraishi N et al, Morphology and morphometry of the human embryonic brain: A three-dimensional analysis, NeuroImage, 115, 96-103, 2015.