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ヒト胎児の骨盤の性差は一次骨化が開始する受精後9週にはすでに存在する

概要

骨盤入口部、恥骨下角、骨盤出口部に性差あり

ヒトの骨盤には思春期以降、明確な性差が認められます。しかし、出生前の胎児期における骨盤の性差については、見解が一致していません。ヒトの骨盤は、軟骨原基が骨組織に置き換えられる軟骨内骨化によって形成されます。これまでの胎児期の性差の検討は、軟骨組織から骨組織への置き換え(一次骨化)がある程度進んだ、受精後20週以降が主に対象とされ、一次骨化が開始する受精後9週から対象とした解析はありませんでした。われわれは、京都大学医学研究科附属先天異常標本解析センター及び島根大学医学部解剖学講座が所蔵する、受精後9週から23週に相当する頭殿長 50~225mmのヒト胎児標本72体のMRI画像を取得し、様々な部位の計測と重回帰分析を行なって性差を検討しました。その結果、骨盤上口の前後径、恥骨下角、および坐骨棘間径と大骨盤横径の比に性差が認められました。従来考えられてきた時期よりも早く、一次骨化の開始期には既に骨盤に性差が存在することを示唆する本研究結果は、ヒト胎児骨盤の形態が男女で異なることを理解する上で重要な知見を提供するものです。

1.背景

思春期以降のヒトの骨盤に性差が見られることは広く知られています。では、具体的にいつからその性差が現れるのでしょうか。この点について、多くの研究者が興味を持ち、解析に取り組んできました。しかしながら、これまでの研究成果をみますと、ヒト胎児骨盤の性差の有無については意見が分かれています。さらに、これまでの研究は、主に受精後20週以降の胎児を対象としており、20週以前を対象とした解析は十分ではありませんでした。そのため、私たちは、外性器の肉眼観察から胎児の性別を判定できる最も早い時期であり、一次骨化が開始する受精後9週(頭殿長[注1] 50mm )からのヒト胎児標本を対象として、骨盤の性差を検討することにしました。

2.研究手法・成果

本研究はヒト胎児標本のMRI画像を取得した後、画像解析ソフトを用いて骨盤の立体像を作成しました(図1)。ヒト胎児標本は、京都大学医学研究科附属先天異常標本解析センターと島根大学医学部解剖学講座が保有する標本群を使用しました。この標本群は、世界最大規模の研究リソースとして知られており、その利用については京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院医の倫理委員会の承認のもとで研究が行われています。

ヒト胎児の性別は外生殖器の肉眼観察から判定しました。肉眼観察を用いた正確な性別判定は、頭殿長50mmの大きさの胎児から十分に可能です。本研究では、頭殿長が50mmから225mmまでのヒト胎児標本72体(男児;34体、女児;38体)のMRI画像を、前臨床用7T及び臨床用7T、3TMRI装置を用いて取得しました。作成した骨盤の立体像から、直線寸法や角度を21か所測定しました。また、直線寸法のデータを用いて計20個の比を算出しました。これらの計測データと重回帰分析を用いて性差を検討しました。

その結果、骨盤上口の前後径、前後径と横径の比、恥骨下角、坐骨棘間距離に対する大骨盤の横径(腸骨稜間距離、上前腸骨棘間距離)の比に有意な性差が確認されました(図2)。本研究成果から、これまでの報告よりも早い一次骨化が開始する受精後9週から、既にヒト胎児の骨盤には性差が存在することが示唆されます。

3.波及効果、今後の予定

本研究成果は、ヒト骨盤の性差に関する理解に大きく貢献し、さらに、骨盤形成の男女の違いについて、発生学や人類学などの様々な領域に新たな視点をもたらすことが期待されます。今回の検討では、なぜ一次骨化開始期から既に性差が存在するのかについては明らかにできていません。今後、ヒト骨盤の形態形成をより深く理解するために、一次骨化開始期以前の骨盤の性差の検討も含めて、より詳細に解析する必要があります。

<研究者のコメント>

本研究では、一次骨化が開始する受精後9週以降の希少なヒト胎児標本と、正確に立体情報を把握できる高解像度MRI画像を取得できたことで、従来では検討できなかった胎児期初期のヒト骨盤を検討し、性差の存在を証明することができました。本成果で得られた新しい知見は、「胎児期のヒトの骨盤では、性差は十分には分からない」と考えられてきた、これまでの定説を覆すという点で大きな価値を持つと考えます。(金橋 徹)

Kanahashi T, Matsubayashi J, Imai H, Yamada S, Otani H, Takakuwa T. Sexual dimorphism of the human fetal pelvis exists at the onset of primary ossification, Communications Biology, 2024, 7:538, https://doi.org/10.1038/s42003-024-06156-y