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病理学の現状とこれからの病理学会のありかたについて

私は、現職で臨床検査技師、看護師等の医療人養成に携わっています。同僚には医師以外の様々な背景を持った方々がおられます。若輩の私ですが、こういった学生、同僚に「病理学とは…」と語る機会や、逆に、意見を頂くこともあります。僭越ではありますが、こうした環境で熟成してきた病理学の現状とこれからの病理学会のありかたについての私見を述べたいと思います。

かつて病理組織学が病気に対する研究手段として優位であった時代、“病理学教室”は多くの業績をあげました。実際、この100年間の病理学会の医学発展への寄与は偉大なものがあります。ところが、現代では科学技術の進歩により、形態以外からの解析が十分可能になりました。“病の理(ことわり)を追究する”という病理学の定義に従えば、今日、基礎医学講座のほぼ全ては“病理学”を行っていると言えます。そう考えると、“病理学教室”で行う研究と他の基礎医学教室との違いは何か、また病理学教室でしかできない研究があるのか、という疑問が発生します。病理学という教育科目があることが、病理学教室がある唯一の存在理由になりつつあると私は考えています。

本学会が確立した病理専門医制度、病理の標榜科への道筋は、病気の診断をする臨床科としての立場を築く大変な功績であると思います。病理学会会員は病理診断をする専門集団としての方向性が明確になりました。しかしそれは、一方で“病理学”研究との乖離を助長する結果になったとも言えます。何しろ医療高度化の中で病理医に課せられる責務は厳しく、たゆまない研鑽が必要ですし、一方、“病理学”の分野にはPhD等が垣根なく参入してきます。今や病理診断の傍ら行う研究では、とうてい太刀打ちできない状態にあります。

病理診断をする科としての立場の研究は“病理学”という研究の一部ではあるけれども、もはや全部ではないということを認めるべきです。例えば、肝臓を専門にする診療科は肝臓の研究をするのが普通であるように、病理診断をする科は「(病理)診断の研究」に活路を見いださねばならないのではないでしょうか。病理診断に固有の研究テーマを開発、実践—例えば形態診断が持つ曖昧さの克服、基礎技術の改良などーを積み重ねていくことで、この分野を支え発展させる研究を行う必要があります。

病理診断の現場では、医師とともに臨床検査技師、細胞検査士等の医療スタッフが働き、この分野の課題を共有しています。本学会会員が病理診断をする専門集団としての色彩を増すにつれ、こういった医療スタッフとどう協調していくかは、現場のみならず学会の運営方針にとっても現実的かつ重大な課題になるでしょう。本学会は医師の学会として発起され、多くの実績を積んできた経緯があります。しかしながら、医師以外の医療スタッフをうまく取り込んで学会運営をしていくことは、近い将来避けて通れなくなるとともに、その成否は本学会の浮沈の鍵を握ると私は考えます。

日本病理学会100周年記念誌記事(コラム記事)投稿文より一部改変

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