生殖器系は1)生殖腺(原始性腺)、2)生殖管、3)外生殖器からなる3,4。胚子の遺伝的性は受精時に決定されるが、上記3系とも男性、女性に発生可能な未分化な時期があり、胎生第7週までは男性、女性の形態的特徴が現れない。
生殖腺
生殖腺は、初め一対の縦走隆起すなわち生殖提として現れ、体腔上皮の増殖と、その下層の間葉細胞の凝集によって形成される。原始生殖細胞は尿膜に近い卵黄嚢壁の内胚葉細胞の間に出現した後、後腸の背側腸間膜に沿って、アメーバ様細胞により移動を開始する3,4。胎生第5週の初めに原始生殖腺に達し、胎生第6週に生殖提に進入する。原始生殖細胞が生殖提に到達する直前または、その経過中に生殖提の体腔上皮は活発に増殖し、上皮細胞はその下層の間葉内に進入する。これらの細胞は原始細胞索を形成する。
遺伝的に男性である場合、原始細胞索から精巣(髄質)索と白膜が分化、形成される。また、遺伝的に女性の場合は、卵巣の形成を起こす。この過程で、1)典型的な卵巣(皮質)索形成、b)精巣(髄質)索の消失、c)白質の不形成を伴う。
生殖腺の下降に従って、精巣、卵巣は成長とともに下降する。女性では男性と比較して下降する程度は小さく、卵巣は最終的に骨盤分界線の直下に位置する。精巣は胎生第2か月末までは尿生殖間膜によって後腹壁に付着しているが、下生殖靭帯と精巣導帯によって、精巣は鼠経域を通過して、陰嚢内へ下降する。
生殖管
未分化期の胚子は2対の生殖管(中腎[ウォルフ]管、中腎傍[ミュラー]管)をもつ(図5)。中腎傍管は尿生殖提の前外側面で体腔上皮が縦に陥入して生じる。この管の頭方は漏斗状に体腔に開き、尾方は中腎管と交叉して尾内側方向に伸びる。正中部では反対側の中腎傍管と密接する。中腎管は密接した中腎傍管の両側で尿生殖洞に開く3,4。
男性では、精巣のライディッヒ細胞から産生されるテストステロンが中腎管の発生を刺激し、セルトリ細胞により作られるミュラー管抑制物質は中腎傍管(女性生殖管系)の発生を抑制する。中腎管は残存して主な生殖管を形成する。精巣索は、やがて腔を生じて精細管となる。精細管は精巣網と連結し、ついて輸出細管とも連結する。輸出細管の開口部のすぐ下で生殖管は著しく伸長して精巣上体管を形成する。精巣上体の尾部から精嚢の上皮芽にかけて中腎管は精管となり、精嚢より遠位は射精管となる。
女性では中腎傍管が発達する。中腎傍管の頭方は卵管となり、下方で密接した部分は癒合して子宮管を形成する(図6)。中腎傍管と尿生殖洞が接している部分から洞膣球(膣板)が形成され、胎生第5カ月までに膣原基となる管腔ができる。この膣腔は処女膜とよばれる薄い組織板で外部と隔てられている。
外生殖器
胎生第3週に、原始線条域に由来する間葉細胞が排泄腔膜の周囲に遊走して、排泄腔ヒダを形成する3,4。排泄腔膜の頭方で、このヒダが結合して生殖結節を形成する(図7)。尾方では、ヒダが前方の尿道ヒダと後方の肛門ヒダに二分される。やがて、尿道ヒダの両側に生殖隆起が形成される。この生殖隆起は男性では陰嚢隆起、女性では大陰唇となるが、胎生第6週末までは形態から両性別を区別できない。
男性では精巣からのアンドロゲンによって、生殖結節が伸長して生殖茎と呼ばれるものが形成される。伸長中に生殖茎は尿道ヒダを前方に引き寄せて、尿道溝の側壁を形成する。尿道溝を覆う上皮は尿道板を形成する。胎生第3カ月末までに尿道ヒダが尿道板を塞ぎ、尿道海綿体部を形成する。尿道の末端部は胎生第4カ月中に形成され、亀頭から外胚葉細胞が内方へ向かって進入し、尿道腔に向かって上皮索を形成する。この上皮索が後に腔を生じ、外尿道口が形成される。
女性では、エストロゲンによって、生殖結節はわずかに伸長して陰核を形成し、尿道ヒダは男性と異なり癒合せず、小陰唇となる。生殖隆起は肥大して大陰唇となる。尿生殖溝は体表に開き、膣前庭となる。発生初期では、男性より女性の生殖結節が大きいことがあるため、妊娠第3-4カ月に結節の長さで性別判定を行うと間違う恐れがある。