ヒト心臓の発生
ヒトの心臓発生は、まず原始結節における左右軸の決定に始まり、その情報が左右の側板中胚葉に伝達される。頭側部分の心原基においては、未熟な中胚葉細胞が心筋前駆細胞に分化したのち、さらに分化を進め次第に胚の中央に移動して心筋細胞となり、胎生22日頃に正中で1本の原始心臓管を形成し、心筋の収縮が見られ管内を血液が流れ始める。胎生27日頃から原始心臓管は蠕動様に収縮し、ルーピングと言われる屈曲を胚の左右へ行って心臓の外形を形成する。この過程で2つの房室弁や心室心房中隔の一部が形成されるとともに、流出路では肺動脈と大動脈をらせん状に分割する。さらに、心房中隔や心室中隔が発達し、最終的に胎生50日頃に2心房2心室の心臓が形成される [4, 5] 。この過程において、胎生27日頃に心室で肉柱が出現して心筋組織に変化がみられることで、心臓の拍動が開始することが分かっている [6] 。
また、月経年齢7週では、房室弁が形成されて洞房結節や房室束が分かるようになり、心室の内面に小柱状構造が観察される。8週では、房室結節が観察でき、房室が隆起して心房中隔・心室中隔膜性部・弁などの形成に繋がる心内膜床が発生する。9週になると心室中隔が閉鎖し、大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管ができるとともに冠状動脈が形成され始める。10週では毛細血管が観察され、18週になると横紋筋細胞と筋線維が観察されるようになる。さらに、24週で観察される心筋は、形態学的にヒト成人のものとほぼ同じである[7] 。
左心房の形成
左心房は心臓心底部の大部分を形成する。前面側には左心耳が続き、心底からは肺静脈が流入している[1]。発生4週目終わり頃から、左心房後壁の一部が一次心房中隔の左側に突出する。この突出物が総肺静脈である。総肺静脈は両側に分岐し、肺原基を取り囲む静脈叢と連結する。その後、総肺静脈と4本の肺静脈の近位部が拡張し、左心房壁に取り込まれ、最終的には第2分岐点より末梢部の4本の肺静脈が左心房から直接突出することになる[2~4]。左心耳は主に原始肺静脈とその枝の吸収によって形成される原始左心房に由来する。左心房の主要部分と左心耳の接合部は狭窄している[6]。肺静脈の左心房壁への取り込みが完了する時期は、発生8週目[2,3]や発生8~9週目[4],発生5週目後半[5]などと説明されている。